ユーコン川をカヌーで下る⑭ フィッシュキャンプ、ファイブフィンガーラピッド(7月25日)

要約

  • フィッシュキャンプは先住民がサケを加工して保存食を作る場所
  • 身に切れ目を入れて乾燥させる
  • ファイブフィンガーラピッドはちょっと緊張する
  • リンクラピッドは横目に通過できる
  • 地図のGood CampがいつもGoodとは限らない

荷物をまとめ、コールマインキャンプ場を出発。後半のスタートだ。

直後、ユーコン川を渡る橋をくぐった。昨日自転車でも通った橋だ。

この旅でツーリングした距離は800キロだったが、その中で唯一の橋だった。

フィッシュキャンプに寄ってみる

しばらく進むと左岸にフィッシュキャンプが見えた。

フィッシュキャンプとはカナダの先住民ファーストネーションのサケ漁の基地だ。ここで捕まえたサケを捌いたり、加工したりする。

フィッシュキャンプはビッグサーモンリバーの合流点にもあった。野田さんの本ではよく「フィッシュキャンプに訪問してサケをもらう」といったシーンがよく出てくる。だけど、彼らは仕事をしているわけだし、そんな風に気軽に旅人が訪問してよいものかと疑問を持っていた。

そこでは「こんちわ」とあいさつしただけで通り過ぎた。その時は無表情なファーストネーションが「やあ」と一言返してくれた。

でもフィッシュキャンプには強い興味があり、この日も観察がてらフィッシュキャンプの前を通ってみた。このキャンプは先日のものよりも大きく、10人弱が作業していた。

川を流れるカヌーの上から「こんにちは」というと1人の男性が「調子はどうだい」と笑顔で言った。

もしや、このフィッシュキャンプは立ち寄れる雰囲気ではないか。とっさに「作業を見ていいい?」という言葉が口を出た。誰かが「いいよ」と言い、接岸したカヌーをファーストネーションの若者がロープで固定してくれた。

フィッシュキャンプの仕事

「僕の名前はタクです。日本から来ました」とユーコン定番の挨拶。

彼(彼女)らはV字型に組んだ板に腹を上にしてサケを乗せ、腹をさき、三枚に下ろしていた。

その後、身に約1センチ間隔で切れ目を入れ、焚き火を炊いた屋根の下に吊るして乾燥させていた。切れ目を入れるのは身の中まで燻して、虫が入らないようにするためだという。

ここでは「乾燥させたもの」「半乾燥」、そして別の小屋で「スモーク」を作っていた。他にも犬たちのために骨周りを乾燥させていた。

半乾燥のサーモンをフライパンで焼いたものに、塩をかけて食べさせてくれた。旨味が凝縮され、しかも脂が乗っていて絶品だった。そう言うと、1人がサケの頭を指差して言った。「皮と身の間を見てごらん。サケはベーリング海からここまで何千キロも旅するから、たくさんの脂を蓄えているんだ」

フィッシュキャンプの人々

彼らの中にはファーストネーションもおり、また白人もいる。

「作業の写真を撮っていい?」と聞くと、痩せた長身の白人男性が「そうだな。5000ドルでいいよ」と笑って言った。「うーん、クレジットカードは使えるかな?」と荒野ボケで返すと、彼は「もちろんさ!僕の尻の間を通しな!」

後から知ったことだが、彼はファーストネーションの女性と結婚した男性だそうだ。またキャンプについて詳しく説明してくれた女性は英国生まれのリサ。夫のジョンが先住民のためのコンサルタントをしている。


リサが説明した。

「このサケは対岸に仕掛けた罠でとったの。昨夜から今朝まででこれだけ(数十匹)。網の設置場所は1945年からずっと変わってないらしいわ」。

このフィッシュキャンプの代表は97歳のおばあちゃんだ。普段はあまり元気がないのに、この時期、フィッシュキャンプに来ると元気になるのだという。リーダーというより、精神的な支柱というのが正しいかもしれない。

またジョンがポツリと注意してくれた。「どのフィッシュキャンプもこんなにフレンドリーってわけではないからね」

結局僕もサケを頂く

メスのサケはイクラを抱えていた。若いファーストネイションがイクラを川に放り投げると、寄ってきたグレイリングがそれに食いついていた。

「日本人はこれが大好きなんだよ。そのせいでアラスカのサケを取りすぎたっていう話も聞いたけどね」。

そんな話をしていると、彼らはジップロックにイクラを入れてくれた。また「これぐらいだったら食えるか」と60センチほどのサケを切り身にして丸々渡してくれた。

長身の男は「さっきの写真撮影と合わせると高えぞ」

1人が言った。昔、犬を連れた日本人がこのキャンプに来てね。イクラをあげるとその中に醤油を注いで食べていたよ」。

犬を連れた日本人、おそらくそれは野田さんなのではないか。

帰国後、野田さんにその話をすると、「カーマックスの少し下か。多分寄ったことがある」とのことだった。

リサは旅が終わってホワートホースに来たらぜひうちに来て、と連絡先を教えてくれた。

僕は焼酎を差し出し、「Japanese Ginです。よかったら飲んでください」と言ったが、冗談好きの長身の男は「君の旅にこれから必要だろう」と受け取らなかった。

緊張のファイヴフィンガーラピッド

フィッシュキャンプを出てしばらくすると、右岸に安田さんのカヌーが見えた。

あと少しで最大の難所とされるファイブフィンガー・ラピッドが訪れる。


この大河に急流が現れている理由は、この場所にいくつもの大岩があり、水流が圧縮されているからだ。

経験者やいろいろな本の情報では「右端の水路の真ん中を行けば大丈夫」「急流というほどのものでもない」とされていたがやはり心配だった。日本ではホワイトウォーターと言われる激流も下っていた自分だが、今乗っているカナディアンカヌーには舟への水の侵入を防ぐスプレースカートがない。

それにユーコンほどの大河だ。波のうねりがどのようになっているかもわからないし、万一バランスを崩したらあっという間にカヌーに水が入り込むのではないかと思った。

なんてことないところで沈してしまうのがカヌーやカヤックだ。ライフジャケットのベルトをぎゅっと閉めた。

先に安田さんが行った。急流を形成する岩の手前は淀みで右側が大きなエディになっていた。数十メートルはある大きく強い水流だ。ボイルと呼ばれる水底からの水流もボコボコと浮かび上がっていて緊張した。

こういうところではバランスを崩しやすい。エディに入らないように中央を進んだ。

岩の真ん中を超えると波が現れ、カヌーが上下した。ざばん、ざばんと波が定期的に船底を打った。一度、左斜め横の波が当たり、少しバランスを崩しかけた。

とはいえそれも沈とは程遠い、なんてことない波なのだが、やはりカヌーに自分の命を託す全ての道具が乗っていて、沈すれば全て流れていってしまうと思うと体が強ばった。

無事、通過。

なんてことないリンクラピッド

またしばらく行くともう一つの難所とされるリンクラピッドがあった。

ここは川の幅広い部分で、中央には白波が立っているが右側は急流ですらなかった。

最良のキャンプ地

夕方、地図に”Good Large Camping Area”と書かれていたユーコン・クロッシングに到着。しかし腰までの雑草に覆われてキャンプどころではなさそうだった。地図の情報が現状とずれているようだ。

午後7時、MERRICE CREEKと呼ばれる場所で、リンクラピッド後に別れていた安田さんに再会した。「とてもいいキャンプ地ですよ」と言う。

河原から小道を30メートルほど登ると、林の端が見晴らしのいい場所になっていた。キャンプ地に決定。
木々の間にタープを張り荷物置き場にして、川側にテントを張った。奥には朽ち果てたキャビンがあった。屋根が残っているのでそこで雨風をしのぐこともできそうだった。

薪を拾いに林に入って行くと、長い小道が続いていた。小道沿いには熊の足跡が続いていた。

サケの保存食作り

キャビンの入り口の焚き火跡で火を起こした。壊れかけだが屋根がある。

いただいたサケでフィッシュキャンプの作業を再現してみた。身に1.5センチほどの感覚で切れ目を入れ、塩を降って焚き火の上に吊るした。しばらくすると、切れ目から油がにじみ出てきた。

数時間後、ややスモークされた切り身が出来上がった。これで数日は持ちそうだった。

イクラの醤油漬け

イクラに醤油をつけて少し食べてみたのだが、醤油とイクラの味がバラバラで美味しくなかった。醤油に浸けて、朝まで置くことにした。

夕食はカーマックスで買った冷凍ピザ。ホイルで包んで焚き火に入れると、綺麗に焼きあがった。

サケは皮側から焼くのが一番美味しい方法だと、いただく際に聞いていた。皮がパリパリになるまで焼くと、サケの油が滲み出て美味しかった。

今日のキャンプはライフルと一緒

遠くに黒い雲が見えた。「こっちに来られたら困りますねえ」と安田さんと話していると、白人の男性が現れた。カナダ人で名前はクレイという。一人乗りのポリ艇でやってきた。

彼はライフルを持っていた。弾丸は大きなもので、当たると2つに割れて大きなダメージを与えると言う。「今晩はクマが来ても安心だね」と僕と安田さん。


焚き火を囲んで3人で話した。

クレイはかつてはアメリカ大統領選の選挙活動にも携わったインテリだが、現在は大工だと言う。「稼ぎがいいんだ」。今後マッケンジーを下りだりたいと思っていて、ユーコンはその前哨戦らしい。

クレイがポケットから携帯電話を取り出し、「レイクラバージュの端で不意に電波が入ったよ」と言った。

そういえば、レイクラバージュの端に怪我をした人がいて、病院に行くために水上飛行機を呼んでいた。人の多いキャンプ地だったから、誰かが携帯電話を持っていて、運よく電波が入ったのかもしれない。

「どんな怪我だったの?」とクレイ。

「目が腫れていたよ。偶然居合わせた医師が病院に行くことを勧めたんだって。なぜ怪我したのかは聞かなかったけど」

「多分xxxxを目に入れたんじゃない?」

「ひでえ!」

それが政治科学で修士を取った男が言うジョークか!

どこにいても電波を求める昨今だ。土産屋で売っていたTシャツにはこんなものがあった。”FREE WiFi →”と書かれた看板の先にクマが待ち構えていて、スマホを持った男性がふらふらと歩いていっている。。そういう時代よね。


雲はちょうど目の前の対岸を通り過ぎ、キャンプ地は雨を免れた。遠くに大きな虹ができいた。

最高のキャンプだった。

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