#5 Taramakau River 豊かな森がつくりだす美しい川

東海岸とは全く違うウエストコーストの川

コースト・トゥ・コーストというレースがある。
南島の西海岸から東海岸まで、
ロードラン、自転車、トレイルラン、カヤックなどを
組み合わせた243キロのレースで、
「複合スポーツにおいて世界で最も距離が長いランニングレースの一つ」(同大会ホームページ)
だという。

コースは大まかに説明すると、
西海岸からタラマカウ川を遡上してアーサーズパス国立公園の峠を越え、
ワイカマリリ川沿いを下って東海岸に至る。

今回、僕が降ったのはレースでは
自転車に乗って横を通り過ぎるだけのタラマカウ川だ。

この川を選んだ理由は水量の豊かさと穏やかさにあった。

2月26日、アーサーズパスの峠を超えてウエストコースト地方に入った時、
このタラマカウ川の河原がとても広く、
豊富に水を湛えていることに気がついた。

恐ろしい瀬があるような雰囲気でもない。
ちょうど、地元の吉野川に近い雰囲気を感じた。

河口付近に近づいても山に森が多かった。
どこまでも草の丘が連なる東海岸側とは異なる雰囲気だった。

河口付近の街・クマラから中流のジャクソンズまではバスが出ていた。
ホキティカのインフォメーションセンターで予約した。
価格は10ドル。

ジャクソンズークマラ間は推定45キロ。
以前下ったエグリントン川の場合、
推定50キロを2日間だったから、
今回もキャンプすると考えた。
食料、水、浄水器、テント、寝袋、マットレスなどを
バックパックにつめる。

クリーンカンティーンの水筒にはワインがほぼ1本入った。
なぜそんなに酒がいるのかって。
酔わないと1人のキャンプは怖くて眠れないからである。

ここに来る途中、DOC(政府観光局)に河原でのキャンプについて確認した。
国立公園では指定の山小屋やキャンプ地に泊らなければいけない。
では国立公園以外ではどうなのか。

まず、川の両岸にある草原などにテントを張る場合、
そこは個人の土地であるため、
十分な「配慮」が必要とされる。

川原は日本の一級河川と同じで国の所有となるそうだ。
許可は特にはいらない。
すなわち、十分な配慮の元なら、キャンプはできるということだ。

ただし、キャンプ地が道路沿いとなると、
法律の関係上問題が出てくるそうだ。

出発

ゴールとなるクマラの河原近くに車を駐車。
10分歩いてバス乗り場へ向かった。午前8時すぎ、バスがきて僕を拾った。晴天。

バスは川沿いを約40分進み、停車した。
そこはジャクソンズにある国道の分かれ道だ。
一方の道路はタラマカウ川を渡る橋に向かっているので、
5分も歩けば河原にたどり着く。
小石が敷き詰められた広い河原。
水は透き通った水色だ。

いつも通りサンドフライと格闘しながら準備を済ませ、
10時45分に出発した。
川底の石が宝石のように輝いていた。
チャラ瀬はあるが、落差があるような瀬はない。
倒木などのストレーナーもない。
ただひたすらに美しい川が続いた。

午後1時、気づけば行程の半分近くまで進んでいた。
思ったよりも早い。
確かに、バスを降りた時に思ったのだ。
「いくら速度を100キロ出せるニュージーランドの道でも、
30分の距離のパドリングに2日間もかかるのか」と。

この日の午後4時にはゴール地点にたどり着いてしまった。

いつまで下っても、川底が見えるほど透き通っていた。
景色が一変したのは河口すぐ手前、ゴールの直前だ。
左岸側に発電所があった。
支流のダムの水力でタービンを回し、ここで水を排出する。
水の排出地点は強い瀬になっていた。
浅場を通って迂回したが、
その下流の水は茶色くにごり、ひどい水質になった。

ゴールして高台からその部分を見てみると、
「黒と透明」といっていいほど色が違った。
極端な例であるが、ダムがどれほど水質を変えるのがよくわかった。