9月のテスリン川 旅のアウトライン

 

 

北にホワイトホースの街、南にシュットワカ湖を見下ろす丘の上では、午後7時なのにまだ陽の光が差していた。

ホワイトホースに到着したばかりの夕方で、風は強いが温かかった。僕は丘を友人リサ、その愛犬アイラと散歩していた。「昨日から急に暖かくなった」とリサが言った。

日もまだ十分に長いし、この気候なら快適なツーリングができそうだ。

そう思ったが、そうは問屋が卸さない。

いつも雨ばかり

翌日の夜からには一雨あり、ツーリングが始まる時には分厚い雲が空が覆っていた。

それから4日間は天候がぐずついて、僕はパドリング中にも雨が降った。
雨の中で漕ぐ時には、ダウンの上にパドリングジャケットを着て、その上に雨具も着た。

なんで今年も来てしまったんだろう。
そんな後悔すら頭をよぎった。

今回の初めて使ったツーリング用のカヤックは細身で荷物があまり乗らない。荷物は極力減らしていた。
特に削ったのが食料で、必要な栄養は計算して行ったつもりだったが、足りるのかがすごく不安だった。
また質素な食事は、僕の心をさらに心細くさせた。

冷たい雨が降る中、全てが不安だった。
1人のキャンプではクマの出現に脅えて何度も目が覚めた。
「次は誰かと来よう」と思った。

5日目からは好天となるのだが、序盤の雨が印象に残る旅だった。

ホワイトホースの高校生たち

今回の旅を振り返る上で欠かせないのは、3日目に出会ったホワイトホースの高校生たちだ。そこから抜きつ抜かれつで、最後はスクールバスを見送った。

地元の公立高校の1年生だが、彼らはアウトドア教育のプログラムを選んでいて、ユーコンの8日ツーリングのほか、マウンテンバイク、クロスカントリースキーと様々な旅を通して学ぶという。

ツーリング中も「今日は途中で科学の授業がある」などと言っていたし、釣ったパイクはさばいて内臓の構造を解説していた。ユーコンそのものが教室になっている感じだ。

もう一つ特徴的なのは、全員の母語が英語なのにもかかわらず、全員がフランス語を喋っているということ。イマージョンプログラムというやつで、彼らは幼稚園の時から授業をフランス語で受けてきたという。

僕と喋る時だけ英語。
フランス語に飽きたのか、日本人に興味あるのかどちらかはわからないが、キャンプ地では生徒が変わる変わる僕のところにやって来た。

彼らのガイドのティモシーには特にお世話になって、野外技術やカヤックのことをたくさん教わった。
人のグループのガイドにもかかわらず(ユーコン川専門のガイドというより、彼らのプログラムに密接に関わっている感じだった)、出会った直後から「タープにオススメの結び方を教えてあげるよ」などと気さくに話しかけてくれたので、次第に仲よくなった。

高校生グループは僕にデザートを用意してくれたり、ユーコンの植物について教えてくれたりと本当によくしてくれた。

日が暮れた雨の中、焚き火を起こそうと四苦八苦していた僕に、生徒の1人が「残り物だけど」と夕食をもってきてくれた時には、本当に神様かと思った。