#2 Eglinton River NZの自然を凝縮したような

【パックラフトと巡るニュージーランド】

1日目

ニュージーランド初めての、もっといえば12年前以来の人生2度目ヒッチハイクは、10秒で成功した。路上に立ち、車が来たので親指を立てたら止まってくれたのだ。あまりにあっけなかったので「僕のために止まったのではないのでは」と疑ったが、運転手は「どこまで行くんだい?」と話しかけてくれた。

彼は中国系カナダ人のイエン。「いつもヒッチハイカーが1人なら乗せるようにしてるんだ。この車は2人乗りだからね」。

グレートウォークの一つ、ルートバーントラック手前にあるLake Gunnで降ろしてもらった。
ちょうどそこで女の子がヒッチハイクしていたのでイエンは僕と交換で拾っていった。

Lake Gunnの流れ出し

Lake Gunnは全長4キロの湖。だが流れ出しは川幅3〜4メートルの小さなクリークだ。両岸に木が張り出していて倒木がないか心配だったが、この流量ならどうにかなるだろうと思って漕ぎ出した。

木漏れ日の中、流れるパックラフトの周囲は次々と景色が変わっていった。こんな場所を漕いだのは初めて!せり出す木々の間を流れる穏やかな川、そしてこの上なく透き通った水。日本ではあまり見られるものではない。

川は一度キャンプ場がある開けた場所に出た。こんな美しく、感じの良い川が続いていくんだろうな。そんな想像をしていたのだが、状況は一変した。

森の中のクリークを下る

キャンプ場の下流あたりで、遠くに倒木が見えた。念のために上陸して確認してみると、川を横断し、完全に塞出で入る倒木だった。このような危険な障害物をカヤック用語でストレーナーと言う。引っかかた場合、人の体は通り抜けられないのに、水だけがすり抜けるため、水圧で体が動かなくなる。そして溺れ死ぬ。これが一番怖いのだ。

倒木はパックラフトを運んで回避。少し進むと川は森の中に入っていった。

事前のリサーチで状況がよくわからなかったのが、このLake Gunn下のキャンプ場から少し下流のミスティク川との合流地点までの状況だった。Googleの航空写真からもこの区間が森の中を流れているのがわかる。

最初の瀬が見えた。倒木はないのでそのまま突っ込んだ。波を受けるたびに水がコクピットに入った。

次はカーブの向こうに瀬があった。直前でエディ(水が渦になっていて停留している場所)に入って状況を確認。さっきよりも荒そうだけど、複雑ではない。正面突破!今度は大きめの波を受けて、コクピットはほぼバスタブのようになった。一旦上陸して水を抜き、再出発した。

この辺まではまだ楽しかった。しかし川は延々と蛇行を続け、次々と瀬が襲ってくる。

カーブ、エディキャッチ、突入、ザブン、突入、ザブン、水抜きの繰り返し。

そして時折、川を塞ぐ倒木が現れるので、それを見逃さずに回避しないといけない。そういう場所では上陸して歩いて倒木を超える(ポーテージという)。

瀬はだんだん荒くなり、水抜きの回数が増えた。

水風呂に入りながら川を下っているようなので、僕はこのパックラフトを「ジャグジー号」と名付けた。生きて帰らせてよ!ジャグジー号!

ストレーナーの危険性

一度、危ない場面があった。

瀬を超えた場所でバックパックが水に落ちてしまい、回収しようとした時だった。カーブの先に川を塞ぐ大きな倒木があるのがわかった。やばい、けれど直前の左岸にエディがあった。そこに入らなければ!

急いでバックパックを引き上げてパドルを漕いだ。しかし、瀬の直後で水が溜まったジャクジー号の動きは重い。左に進路はとったがエディに入るには50センチ足りなかった。やばい!倒木にぶつかる!

おそらくはこの時にとっさの判断を取れるかどうかが生死を分けるんだろうと思う。

こんな時一番してはならないのは、倒木を恐れて川の上流側に重心をかけてしまうことだ。すると舟の上流側に川の流れがあたり、簡単にひっくり返る。人の体は倒木の下に潜り込み、下手すれば枝に引っかかり、溺死である。

僕は上半身で倒木に体当たりし、倒木の上に体を乗せた。ドンという衝撃。パックラフトは倒木に押さえつけられながらも停止した。倒木のちょうど左端の幹の部分で流速も遅い場所だった。右側は瀬だった。そちらを行っていたら、確実に引っかかり、沈していただろう。

詳しくは動画を参照していただきたい。

このブッシュが延々と2時間ほど続いた。1カ所、いくつかのホールを含む大きめ瀬があったので、そこはポーテージした。パックラフトはホールに弱いことはわかっていた。
それ以外の瀬のレベル自体はたいしたないのだが「カーブを曲がれば先がどうなっているだろうか」という緊張感と、この森がいつ終わるのかわからない不安が精神をすり減らした。最後の倒木をポーテージすると、支流との合流点だった。氷河から流れるこの水は冷たく、手を入れるとジンジンした。

感じの良いエグリントン川

エグリントン渓谷は両岸を高い山々に挟まれた平地を流れた。
森の中を抜けると視界が開け、高所に氷河を抱える山々を見ながら下ることになる。山の上の氷河からは水が溶け出し、岩の山肌を滝となって流れ落ちていた。

ストレーナーは定期的に訪れたが、視界が良いのでだいぶ前から気づくことができるし、ポーテージするほどのものではなかった。

時折道路が近づいたり、キャンプ場が見えたりした。ここはフィヨルドランド国立公園内なので、キャンプは決められた場所以外でしてはいけない。川沿いに公営の無人キャンプ場が7カ所あるが、川から気づけるのは2,3カ所だ。

夕方、久々にザブザブと水をかぶせてくる大きめの瀬を超えた。波は大きいが流れは正直なので難しくはなかった。直後のキャンプ場に上陸してテントを張った。

2日目

地獄の門

朝、夏だというのに霜が降りていた。腕時計の温度計で2度。パックラフトについた水滴は凍っていた。
この日も気持ちが良い流れが続いた。水深50センチほどの穏やかな流れが続く一帯は、フライを流して見たい気分だった。この川で許されている釣りはフライのみだ。ただ今回は釣り道具を持ってきていなかった。

1,2時間漕いだ場所で道路を目にしたのを最後に、川は再び道路から離れていく。ちょうど国立公園区域の境目の周辺だ。

気づくと自分が広い河原に囲まれているにもかかわらず、目の前180度が森になっているのがわかった。間違いない。また森の中を行くのだ。それがわかって気分が重くなった。

森に入ると、最初は今まで通りの紳士的な川だった。しかし、急に両岸が切り立った崖になった。奥を見ながら慎重に下ったが、川幅が10メートル弱に狭まり、その奥がカーブして見えなくなっていた。

もう地獄の門にしか見えなかった。この場所で一気に水が集まってるのだ。どうせカーブの先がすごい荒瀬だったり、あるいは滝になってたりするんでしょう、エグリントン川さん!

かといってこの引き返せるわけでもない。上陸してカーブの奥をできるだけのぞき込んだ。たとえその先が滝であっても、左岸側に上陸できそうな場所があった。まずはそこへ避難だ!

意を決して突入したのだが、門の先は拍子抜けするほど穏やかな流れだった。その後もいくつか門が訪れたが、エグリントン川さんはいたって紳士的だった。大好き!

牧場地帯をいく

森林地帯を超えると、そこはすでに国立公園ではなくなる。木々は刈られて牧草地帯になり、牛が草を食んでいるのが見えた。

ニュージーランドは森林の多くを刈って牧場にしてしまった国だ。「元々そういう風景だったのでは」と疑問に思う人もいるかもしれないが、そうではないことはフィヨルドランド国立公園の入り口を見ればわかる。境界は森の有無によって明確に浮き上がっているからだ。

正午すぎ、ティアナウ湖に到着した。

最初の森を除けば紳士的であり、その森にも原生林ならではの魅力があった。キャンプ場をのぞいてほとんど人の気配がない原始の自然。氷河が残る山々。終盤に訪れる牧草地帯もニュージーランドらしく、まさにニュージーランドを凝縮したような川だった。

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