#3 Rees river トレイルで泥まみれ!

【パックラフトと巡るニュージーランド】

白馬に乗った魔法使いが黄金色の大地を行く。このフォトジェニックなシーンは映画ロードオブザリングの一場面だ。中つ国はピンチなんだろうけど、それにしても景色が美しい。「なんだか行ってみたいなあ」と思った人も多いのではないか。

しかし言う。どうせそんな平地は至る所がずぶずぶの湿地なのである。なぜそう言うのか。そんな湿地を歩いてきたからである。

リース川(Rees River)はクイーンズタウン北部、グレンノーチー近くにある小さな川だ。この川を下ろうと思った理由は2つある。

1つ目はまず、パックラフティングニュージーランドの1日ツアーのコースになっていること。「パックラフトの初体験にもうってつけのツアー」と書いているので、おそらくは川自体もイージーなのだろうと思ったからだ。(結論をいうとそんな簡単な話ではなかった)

2つ目はニュージーランド国内の様々なトレイル情報をくれた友人・太一くんが「一番のおすすめ」と言っていたトレイルの一部だからである。リース川沿いはその3泊4日のトレイルの終盤部にあたる。おすすめ部分はそこに至るまでだが「トレイルの絶景を眺めた後、最後はパックラフトで下る」なんて言うコースが組めるのなら夢みたいではないか。

DAY1

僕のプランはこうだった。

リース川沿いをトレッキングし、急な渓谷になる手前でパックラフトをデポ。そのまま渓谷沿いのブッシュを登り、山小屋に一泊。翌日、パックラフトで川を下る。
山小屋までは6〜8時間の道のりだ。

結果的に、この計画は大きく変更された。経緯はこうだ。

泥だらけのトレイル

まず初日、トレイルのスタートであるMuddy Creek Car Parkまでの道がかなり荒れていた。道路を何箇所も沢が横切っていた。2日後には天候が崩れる予報だったため、増水すれば僕のセフィーボロでは帰ってこれないかもしれないと思った。このため、最初の沢の手前で車を駐車して歩くことにした。これで2時間ロスした。

当初の出発予定地に着いたのは正午。
そこからはトレイルを終えた人たちと次々とすれ違った。一人のおじさんがポツリと「僕もそんな舟があったらと思ったよ」と言った。その意味を知ることになったのはこの直後だ。

トレイルは日本の登山道のように整備されたものではなく、至るところを沢や小川が流れている。その部分は水に入ってざぶざぶと越えていかなければならない。その他の部分は草原だが、草が膝上まで来るとトレイルが見えにくくなるため、定期的に設置されている赤い杭を目印に進む。

沢や小川が綺麗な水流ならばいいのだが、大抵はドロドロの湿地である。そのうち、平地でも沼のような部分が増えてきた。最初はくるぶし程度まだだったが、そのうちひざ下まで浸かる部分も現れた。

時折、道しるべを見失い、沼をすぶずぶと行った。ふと山手を見ると乾燥した場所にトレイルがあったり、トレイルと思って歩いている場所が馬の歩いた道だったりした。馬の足跡や糞はとても多かった。

こんなずぶずぶの道だから四つ足の馬が活躍するのである。だからガンダルフも馬で行ったのである(多分)。二足歩行で進む僕の気分は「死者の沼地」を行くフロドとサムの気持ちであった。

体力がどんどん奪われ、思ったよりも水を消費してしまった。食料はあるが、これから行く山小屋には水場があるのか気になった。川の水を飲むのは怖い。それと初歩的なミスだが、僕は地図を車に忘れていた。少しでも足を止めるとたちまちサンドフライが体に群がる。一度血を吸われると数日間はかゆみが続くこの虫にはうんざりさせられる。

プランB

3時間後の午後3時半、目の前にブッシュが見えた。グーグルマップで確認した際に、ここから上流は段差の多い川になることが分かっていたし、そもそもこの時点で水量はパックラフトの川下りでギリギリだった。

当初の予定はここでパックラフトをデポし、3〜4時間先の山小屋まで行く予定だった。しかし、疲労困憊した自分に行けるのだろうかと言う考えが頭をよぎった。

ここからは沼はないだろうが道は傾斜している。日暮れは午後9時ごろ、脳内の計算では1時間の余裕があるが、ここまでも道に何度か迷った。道を見失えば日暮れまでに山小屋に到着できない可能性もある。

ここでパックラフトを膨らませて下っていけば、確実に車まではたどり着ける。川下り予定区間の出発点までは来たではないか…..。

よし、下ろう、と決めてからは早かった。即座に川へのアクセスを見つけ、10分ほどでパックラフトを膨らませた。黒だかりのサンドフライと戦いならが服を着替え、約30分で準備完了!

”Let’s fxxk out of this valley!!”
思わず出た独り言には普段使わないような言葉が混じった。

あっという間にスタート地点へ

出発直後のリース川はやや水量不足で、頻繁に底をすった。しかし流れ自体は順調だった。

右手の岩肌には雪渓から流れ出した水が網目のようになった末に集まり、滝になっているのが見えた。

平らで木々が少ないので倒木は少なく、また前回下ったエグリントン川よりは蛇行が少ないため、スイスイと進んで行った。ペースは登りの3分の2弱、労力は半分以下だ!パックラフト万歳!

もしワナカ側から山を超えるなら、パックラフトを携帯することを検討いただきたい!
(ただしパックラフトがいくら軽いとはいえ、パドルを含めて5キロ増は覚悟しないといけない。装備はごくごく軽量に)

1時間半ほど下った地点で行きで歩いた農道が見えた。マディクリークの駐車場まで後少しだった。ここまで一カ所をのぞいてごくなだらかな流れが続いていたリース川だったが、マディクリーク周辺で様子が一変する。600メートルほどの区間でかなりのホワイトウォーターが続くのだ。

理由はマディクリークにある。その名の通り、この支流から流れる水には泥が多く含まれていた。どうやらそれだけでなく、増水時には流域の大岩小岩もまとめて流れでてくるようで、その岩が段差を含む急な流れを作り出しているのだ。

こんな場所でチンしてはひとたまりもない。僕はポーテージを選んだ。マディクリークから離れるほど、川の荒々しさは減るが、それでも上流に比べれば流れは荒い。再びパドリングを始めから、僕のジャグジー号は本領を発揮し、水をじゃぶじゃぶと抱えて流れた。おかげで一カ所、沈の一歩手前までバランスを崩してしまった。

午後7時、泥沼の進軍で痛めた両足を引きずりながら車に到着。「もうしばらく休みたい」と思いながらキャンプ場に帰った。

トレイルはいつも泥だけ?

ちなみにであるが、後日この日のトレイルの状況についてDOCの事務所で聞いてみた。トレイルは泥だらけであるがいつもそうなのか、という質問であったが、答えは「大抵はそう」とのことだった。

DAY2

僕の旅の1つの目的に「パックラフトでの川旅の可能性を調査する」ということがある。よい川であればマップを製作したいと考えている。

昨日は「もうしばらく休みたい」と毒吐いていた自分だが、昨日の車の駐車地点で調査を辞めたのでは目的は達成されないのである。

翌日も僕はバックパックに最低限の荷物だけを詰め、川の上流に向かって歩きはじめていた。4時間ほどの道のりと見られた。道路を歩いて、なだらかな川を下るだけだ。早くやり終えてビールを飲もう。美味しいものを食べよう。そう思ってとぼとぼ歩いた。

両足は思ったほど痛んではいなかった。3時間ほど歩いたところで酪農家の4WDが「乗って行くかい?」と声をかけてくれたので助かった。
「いい国だろう。高校時代、オークランドに住んでたって?あそこはニュージーランドじゃないからね」

再スタート

昨日の上陸地点からスタート。予想していた通り、序盤は水をかぶる程度の瀬が続き、直後に視界がひらけた。
流れはなだらかであり、川は幾つもの流れに分かれていた。流量の多いメインの流れを見極めて進んだ。

しかしここからが長かった。あの丘の辺りが街なのは分かっているのに、一向に近づかない。漕ぐのも面倒になり、大半の時間を流れて過ごすようになった。
リース川の隣を流れるダート川沿いに、砂嵐に近いほどの土埃が舞っているのが見えた。乾燥しているため風が泥を吹き上げられるのだろう。リース川でも時折強い風とともに土埃が襲った。

網の目のような河口付近。そして迷う。

ふと携帯電話で地図を見て気がついた。本来流れるべきリース川の本流から外れ、隣のダート川の方へ向かう流れに乗っているではないか。ゴールのグレンノーキーは湖の辺りにあるが、この流れのまま湖に出れば、かなりの距離、湖を漕がなければならなくなる。

ビールが目の前から遠のいていった。仕方なく僕はパックラフトの空気を抜き、荷物を担いで歩き出した。川の真ん中の、中洲と呼ぶには大きすぎる陸地を歩く。最初は馬が歩いた跡を追いかけていたが、方向が違ったのでブッシュに入った。人の形跡が完全になくなった。膝上までの草原を歩いた直後には、枝だらけの藪を行った。足元からウサギが飛び出してビクッとした。

1キロ以上歩いただろう。目の前に現れたリース川はグーグルマップで見ていたものとは違い、パックラフトで下るのは厳しいほど浅い浅い川になっていた。川の流れは毎年変わるのだ。おそらく「流量の多いメインの流れを選ぶ」という点では僕はミスをしていなかったのだと思う。

河原を歩き、川の河口が見えた頃に街への入り口が見えた。
キャンプ場に帰り、衣類を全て洗濯機にかけてから街へ。ビール2杯を一気に飲むとなぜか発熱し、頭がくらくらした。

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