#8 Hurunui River 降り止まぬ雨で低体温症に!

【パックラフトと巡るニュージーランド】
未舗装の牧場地帯を行く

これまではバスや歩きでアクセスできる川を選んできた。
しかし今回は車がなければアクセスできない場所だ。

目指したのはガイドブックWhitewater NewZealandに掲載されている上流部だ。
近くのハワーデンの町からも車で1時間近く走らなければならない。

半分以上は未舗装の道だし、途中で道路のど真ん中には牛が立っていた。
人里から離れているので、柵も必要ないらしい。

ニジマスが釣りたい

これまで釣ってきたブラウントラウトは味がイマイチだった。
だからニジマスが食べたかった。

フルフイ川の支流(South Branch)は水が透き通っていてコケが少なく、とても美しかった。釣りのリミットなどを示した看板によると、ニジマスがいるようだったので、ここでルアーを振ってみた。

誰もいない、澄んだ、広い川の上流で釣りをする。釣り師でなくとも憧れるような風景だ。

魚は追って来るものの、なかなか食いつかなかった。
しかし淵でスプーンを沈め、引き始めたところで魚が掛かった。結構でかい!

「GroProのスイッチを入れないと」などと余計なことを考え、あたふたしてしまった。
トラウトが跳ね上がって身を翻すと、竿は急に軽くなった。
その肌は虹色だったように思えた。

「くうーっ」
思わず声を出してしまった。
その後、バイトはなかった。

ダム計画があった川

このフルヌイ川の南支流には、近年まで議論されていたダム問題があった。
堤高75mという巨大なダムだ。また本流の水源になっているサムナー湖の流れ出しには堤を建設し、貯水量を上げる計画だった。

この計画の主な目的は利水だ。
北カンタベリーでは10年以上にわたって定期的な干ばつに晒され、生産量を制限するなど対応を余儀なくされてきた。

しかし、カヤッカーや釣り人はこの美しい渓谷が失われることに強く抗議した。
詳しくはまた別のところで書こうと思うが、5年以上の議論の末、計画は妥協案に落ち着くことになった。

妥協案はフルヌイのダム建設が中止にして、その代わりに小さな支流・ワイトヒ川にダムを建設するものだ。
ダム自体が中止されたわけではない。

しかし、カヤッカー・釣り人らの主張は認められたと言っていい。日本でカヤッカーらがダムに反対したところで、その意見が通るだろうか。

カヤッカー・釣り人たちが一部勝利をつかんだ理由は、彼らの強い連携があったからというのは疑いようがない。
マーチソンで出会ったラフト&カヤックガイド(かつては長良川にいたらしい)はこう言っていた。
「俺はニュージーランドでカヤックをしているやつは全員知っている」

彼が本当に知っているかはともかく、ニュージーランドのカヤックコミュニティが強い結びつきを持っているのは確かだ。

雨模様

テイラー湖にはキャンプ場があったのでそこに宿泊。
翌朝、前日とは打って変わって、空は分厚い雲で覆われていた。

今回は、川沿いのトレイルを半日歩き、サムナー湖のフルヌイ川の流れ出しから下る予定を立てていた。
せっかくなので、流れ出しでパックラフトをデポし、もう半日奥にある山小屋で一泊しようかと考えていた。

ただ、雨は今にも降り出しそうだった。
「川下りはしたくないな。もう帰ろうかな」
そんな思いが頭をよぎった。
車の車検切れが迫っていたので、行くなら今日しかなかった。

迷いに迷った末、1泊2日の予定を1日に変更。少ない荷物で素早くトレイルを終え、一気に下ってしまうことにした。(そもそも1日はパックラフトをデポして川下りに関係のない山道を歩く予定だった)

だいたい僕はいつも、川を下る前は不安でしょうがなくて、理由をつけて「行きたくないなあ」と思ってしまう。僕が山に登ったり、川を下ったり、魚を釣ったりするのは、どちらかというとそれが好きというより、そうしないと怠け者の自分がダメになってしまうからのような気がする。

トレイルを駆ける!雨が強まる!

出発と同時に、雨が降ってきた。
最初からカヌーの格好で歩き始めた。

スタート地点には小さな吊り橋があった。ワーヤーだけでできていて、一歩一歩で大きく揺れる。
その後はほぼ平らな牧草地帯が続いた。牛の糞がたくさんあったが、牛そのものは見なかった。

途中、小さなクリークを渡った。あまり整備されたトレイルではないので、他にも沼っぽい場所がいくつかあった。でも最初からパドリングシューズなので気にならなかった。

雨がどんどん強くなってきた。早くこのトレイルを終えたいと、自然と駆け足になった。

Hut(山小屋)のありがたさ

3時間後、小走りのおかげで標準時間から1時間短縮して、サムナー湖の近くのGabriels Hutに到着した。政府の環境保護局(DOC)が設置している小屋だ。

DOCの小屋は国内に1000個所近くある。小屋にはそれぞれランクがあり、有料と無料がある。
Gabriels Hutは無料の小屋だ。それだけに古く汚れた質素な小屋だが、ベッド、少しの飲料水、トイレなどはある。何よりも嬉しかったのは、暖炉があり、乾燥したたくさんの薪とマッチが置かれていたことだ。火を焚いて体を温め、サンドイッチを食べた。

※山小屋について書いた記事は後日紹介します。

サムナー湖を出発。

Gabriels Hutから20分ほど歩くとサムナー湖に出た。流れ出しはすぐ近くにあった。
「早くこの谷から出よう。温かいものが食べたい」
パックラフトのセットアップにも慣れてきた。ウェアは最初から着込んでいたので、膨らませてすぐに出発した。

川は荒野を流れた。豊富な水量があり、川幅も広い。
雨で活性が上がったのか、トラウトが跳ねた。
川の流れは止まることがないので、漕がなくても確実に進んでくれるのがありがたかった。

2級プラスの瀬

川のほとんどの区間は開けた荒野だったが、ゴルジュが一ヶ所あった。
両側が崖に囲まれており、水が集約されている。

しかし瀬の落差は少ないので、難しくはなかった。
狭い通路を行くパドリングは、景色が次々と変わるのでとても楽しい。

前回、ブラー川で2級、3級の区間を体感してランクづけしてみたが、レイクサムナーから吊り橋(2つあるうちの下の方)までの区間は全体的に2級、このゴルジュは2級プラスだ。

河原にはびこるディディモ

でも僕はこの川を美しいと思ったかといえば、そうでもなかった。
その理由はそこらじゅうの石に張り付いているぶちょぶちょした藻のせいである。

その藻は名前をディディモ(Didymosphenia geminata)という。
原産の藻だが、ニュージーランドで2004年、南半球で初めて発見された。

このディディモ、繁殖力がものすごく強い。しかも、塊を形成するまでは人間の目には見えないほど小さいという。
Googleの画像検索でDidymoを調べると、恐ろしい画像がたくさん出てくる。

拡散を防ぐため、南島では川と川を移動する場合には見えている植物片は全て取り除き、完全に乾燥、あるいは洗剤などで消毒することが求められている。

間違えても日本に持ち帰ったりしないように、注意が必要だ。
対策などはこちら

やまない雨で低体温症!

体に変化が現れたのは、ゴールまで1時間を切ったあたりである。
体が芯から冷え、震えだしたのだ。

トレイルでは小走りで進んでいたので、体はある程度温まっていた。
しかしパドリングは、休んでいても進むのはいいけれど、その間、体が冷える一方なのである。
最後の30分は体ががたがた震えて止まらなかった。

ゴールの吊り橋で僕は雑にパックラフトをたたんで車まで行くと、パドリングウェアを脱ぎ捨てた。
乾いた服に着替えてもしばらく震えが止まらなかった。

急いで作った油そばが体にしみた。

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