ここ3年ほど、毎年、北米のユーコン川をカヌーで下っています。カナダからアラスカにかけて流れる大河で、日本では1980年代にカヌーイストの野田知佑さんが紹介して有名になりました。私は中学時代に吉野川シンポジウム実行委員会の「川の学校」に参加して以来、野田さんには懇意にしていただいています。
ユーコン川は3200kmの大河であるにも関わらず、橋が3本しかかかっていません。ハイウェイが途切れて、フェリーで車を渡している場所だってあります。吉野川は194kmですが、徳島県の区間だけでも30以上の橋があるのはご周知の通り。
決して自然保護のために橋を作らないのではなく、「単に人が少ない」(地元住民)「建設費よりフェリーの運航費の方が安い」(フェリーの乗組員)というのが実情のようですが、その違いは十分に異国を感じさせてくれます。
一方で、長い自然保護の歴史を匂わせるのは、ユーコン準州ホワイトホースにあるダムに設置された魚道です。このダムは1958年に建設されましたが、サケの遡上を助けるため、建設直後に魚道が設置されました。全長は366mで、世界で最も長い木道の魚道とされます。サケを愛する現地の友人に言わせれば「付け焼き刃」ですが、今から60年も前にそのような魚道が設置されたことに驚きます。
それもそのはず。ユーコン川においてサケと人とのの関わりは深いものがあります。北極圏に近いユーコンでは、冬は白夜のようになります。その間は極寒の荒野で狩りをするしか食料を得る手立てがありません。そのため、ユーコンの先住民は夏の間にサケを獲り、乾燥サーモンを作って冬の食料にしていました。人々の生活がサケとともにあったのです。
カヌーでユーコンを下っていると、先住民が獲ったサケを家族総出で加工する場所”フィッシュキャンプ”に出会います。しかし、高齢化に伴い、フィッシュキャンプの数も減っているそうです。今後、ユーコンのサケ文化がどのように変わっていくのかが気になります。
川をカヌーで旅すると、普段見えなかった視点から、自然や人の暮らしが見えてきます。海外だけでなく、みなさんの地元の川にも様々な発見があるはずです。私も近く、久しぶりに吉野川を下って、カナダの川と比べてみようかと思っています。